教職の分業を前提とした大学職員の専門性について

   教育組織と事務組織は大学における車の両輪であると言われながらも、その両者は従来、ある意味で主と従の関係にあった。これは所謂、「大学職員は縁の下の力持ち」といった発言に代表されるような状況だと言ってよい。しかし、近時、大学職員の置かれた状況を振り返ってみると、高等教育の質を保障する観点からFD・SDの重要性を指摘した中教審の「将来像答申」(平成17年1月)にはじまり、直近の中教審答申「学士課程教育の構築」(平成20年12月)では、「大学経営をめぐる課題が高度化・複雑化する中、職員の能力開発(スタッフ・ディロップメント)はますます重要になってきている」ことを指摘したうえで、SDという表現を、あえて「職員」の職能開発に限定して使うまでに至っている。
  こうした背景のもと、大学職員の地位向上をめざした組織的運動(FMIX)から、大学職員の専門性へとシフトした大学行政管理学会の設立、そしてアメリカの大学におけるアドミニストレーターを念頭に置いた専門大学院の出現や特定地域の大学職員が組織的に共同開発した高等教育のプロフェッショナル養成を目指したプログラム「SPOD−SD」など、時代は大きくパラダイムシフトしていると言っても過言ではない。すでに多くの大規模総合大学では、「何でも屋」のジェネラリストではなく、問題解決できるプロフェッショナルとしての大学職員の養成に知恵を砕いており、そこではむしろ競争より「専門性」に重点が置かれている。この点が利益を追求する民間企業との大きな違いであろう。
  振り返れば、永井道夫は60年代半ばすでに、大学職員は「・・・特別な専門家として取り扱わなくてはならない。・・・(中略)・・・法律や財政だけではなく、教育思想史、大学の歴史、科学技術の現状、学生の生活などについて深い知識を持つ専門家として教育を受けたものが、今後の大学運営を担当しなければならない」と指摘している。すなわち、こうした教・職の分業を経て、初めて両者の協働が実現するのであり、そのためには事務組織の改革が必要だと強く主張しているのである。
  それからはや45年。大学の事務組織と大学職員のありかたはどう変化したのだろうか?知識基盤社会と言われる今世紀、知の拠点として生き残れるかどうかは、まさしくこれを実現できるかどうかにかかっている。